古くから、鳩は「平和の象徴」や「神の使い」として、世界中で神聖な鳥と見なされてきました。その影響からか、日本でも「家に鳩が巣を作ると、幸運が訪れる」「商売繁盛や家庭円満の吉兆」といった言い伝えが、まことしやかに語られることがあります。穏やかで、夫婦仲が良く、子育て熱心な鳩の姿が、家庭の平和や子孫繁栄のイメージと結びついたのかもしれません。軒先に鳩が巣をかけると、その家は火事にならない、といった伝承も存在します。確かに、自宅のベランダで小さな命が生まれ、育っていく様子を目の当たりにすることは、感動的で、心が温かくなる経験かもしれません。しかし、その感動と引き換えに、私たちは様々な現実的な問題に直面することになります。鳩の巣がもたらすのは、残念ながら幸運ではなく、鳴き声による騒音、そして大量の糞による悪臭と健康被害のリスクです。糞に含まれる病原菌は、特に免疫力の低いお年寄りや子供にとっては、深刻な病気の原因となり得ます。また、巣に寄生するダニやノミが室内に入り込み、アレルギーを引き起こすこともあります。建物の美観は損なわれ、資産価値の低下にも繋がりかねません。さらに、前述の通り、「鳥獣保護管理法」により、一度卵や雛が生まれてしまうと、巣立つまでの約一ヶ月間、その巣を撤去することができなくなります。その間、私たちはただひたすら、騒音と不衛生な環境に耐え続けなければならないのです。幸運の言い伝えは、自然と共に生きていた時代の、おおらかな価値観が生み出した美しい迷信なのかもしれません。現代の、密集した住環境においては、鳩が巣を作るということは、残念ながら「幸運の知らせ」ではなく、「法律と健康リスクを伴う、厄介な問題の始まり」の合図と捉えるのが、現実的で賢明な判断と言えるでしょう。感動は遠くから見守るに留め、自宅への営巣は、毅然とした態度で防ぐことが大切です。