忘れもしない去年の夏のことです。蒸し暑い午後の昼下がり、私はリビングでうたた寝をしていました。ふと、ブーンという低い羽音で目が覚めたのです。最初は気のせいかと思いましたが、音は断続的に聞こえてきます。まさかと思い、ゆっくりと目を開けると、信じられない光景が目に飛び込んできました。体長3センチはあろうかという大きなアシナガバチが、部屋の中をゆっくりと旋回していたのです。どこから入ってきたのか、窓は閉めていたはずなのに…。一瞬で眠気は吹き飛び、心臓がバクバクと音を立て始めました。パニックになりかけた私を、夫が「静かに!」と制しました。二人で息を殺し、蜂の動きを注意深く見守ります。蜂はしばらく部屋の中を飛び回っていましたが、やがて窓ガラスにぶつかり始めました。外に出たいのに出られない、そんな様子に見えました。夫は「窓を開けて逃がそう」と言い、そっと窓の鍵に手をかけました。しかし、その瞬間、蜂がこちらに向かって飛んできたのです!思わず「キャー!」と叫んでしまい、夫と一緒に隣の部屋へ駆け込み、慌ててドアを閉めました。ドア一枚隔てた向こうで、蜂が飛び回る音が聞こえます。生きた心地がしませんでした。どうしよう、このままじゃ家の中に蜂がいる状態だ…。しばらくドアの前で固まっていましたが、意を決して夫がもう一度リビングの様子を窺いました。すると、蜂は再び窓の近くを飛んでいたそうです。今度こそ刺激しないように、夫はゆっくりと窓を全開にし、私たちは息を潜めて蜂が外へ出ていくのを待ちました。数分が永遠のように感じられましたが、やがて蜂は窓から飛び立ち、青い空へと消えていきました。全身の力が抜け、二人で床に座り込んでしまいました。あの時の恐怖と安堵感は、今でも鮮明に覚えています。後で確認すると、換気のために少しだけ開けていた小窓の網戸が、ほんの少しだけずれていたことが分かりました。わずかな隙間から侵入してきたのでしょう。この一件以来、我が家では窓や網戸のチェックを怠らないようになりました。突然の訪問者との遭遇は、本当に怖いものです。
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