それは、一人暮らしを始めて間もない、夏の夜のことでした。慣れない自炊を終え、キッチンの片付けをしていた私の視界の端を、黒く素早い影が横切りました。心臓が跳ね上がり、全身が総毛立つ感覚。間違いありません、ゴキブリです。パニックに陥った私は、近くにあった雑誌を手に取り、夢中でそれを叩きつけました。幸運にも一撃で仕留めることができましたが、問題はその後の処理です。潰れた虫の姿を直視することもできず、ティッシュで何重にも包み、私は迷わずトイレへ直行しました。そして、渦巻く水の中にその物体を放り込み、レバーを強くひねりました。視界から消えたことで、私はひとまず安堵し、その夜はそれで終わったつもりでした。しかし、本当の恐怖はその数週間後にやってきました。ある夜、トイレに入ると、便器の水際に小さな動くものが見えたのです。目を凝らすと、それは数ミリほどの、茶色いゴキブリの幼虫でした。一匹だけではありません、よく見ると数匹がうごめいています。私は血の気が引くのを感じました。あの時流したゴキブリがメスで、流される直前に卵鞘を産み落としていたのか。あるいは、生き延びた彼が下水で繁殖し、その子どもたちが戻ってきたのか。真実は分かりません。しかし、あの時トイレに流したことが原因であることは、直感的に理解できました。それからの日々は、まさに悪夢でした。トイレに入るたびに便器の中を恐る恐る確認し、排水口から何かが上がってくるのではないかという恐怖に怯え、夜中に物音がするだけで飛び起きるようになりました。結局、私は専門の駆除業者を呼ぶことになり、安易な行動が招いた結果の大きさと、余計な出費を心から後悔しました。この経験から学んだ教訓は、ゴキブリの処理は決して見えない場所に問題を押し込めることではない、ということです。その場で確実に、そして他の場所に影響を与えない形で完結させること。それが、後々の恐怖と後悔を生まないための、唯一正しい方法なのです。
私がゴキブリをトイレに流して後悔した日